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Channel: 小夜乃(さよの)の別館
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須臾の恋落ち(11)

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皇女ヘミョンの登場で、チェギョンは高貴な友人(?)を二人も持つことになった。
シンに加えて、ヘミョンもメル友になり、度々宮殿に訪れてダンスを習ったり、3人でお茶をしたりと、庶民の女子としては信じられない状況が続いている。


「ねえ、チェギョン。皇太子殿下とは上手く行っているの?」

アルバイト先の店長、マ・グヨンが何気ない表情で聞いて来た。

「う、上手くって・・・。あの・・・、時々、ダンスを習っていますけど。」
「まあ!殿下にダンスを習っているの?」
「ええ、まあ・・・。」
「凄いわねぇ。そうか・・・、お妃候補ともなれば、ダンスくらい出来なきゃね!」
「お妃候補だなんて!私は、違います、グヨンさん!」
「あら、そう?殿下は、あなたをお妃選びのパーティーに出すために、ダンスを教えてるんじゃない?」
「ま、まさか!私はパーティーに出る資格なんてありません!」


確かに皇太子主催のパーティーに出席するには、条件がある。
ある程度の立場にある人間の、推薦が必要なのだ。
推薦権は”宮”から与えられたもの。
”宮”の信用を得ている人間が、その権利を遂行できる。


「そう言えば、今日もパーティーだと言っていたわ。」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、ヘミョンから聞いたの。」
「そう・・・、ですか。」
「お妃選びのパーティーは、もう残り少ないとか・・・。あと、1~2回じゃない?その後は、宮殿でパーティーが開かれて、本格的に妃宮選びが始まるのよ。」


そんな話を聞いてしまえば、やはり落ち込むチェギョン。
自分の立場を思い知らされるのだ

宮殿でシンと話をしている時は、彼のささやきがツンツン心を刺激して、期待の気持ちがむくむくと大きくなる。

けれど、自宅に帰って冷静になれば、それはまるで夢の中の出来事のように思えて来るのだ。

たとえ皇子が本気で自分を口説いていたとしても、それは、一時のお遊びにすぎない。
今まさにお妃選びが進行しているのだ。
お妃とは、皇子の妻の事。
シンの結婚は、着々と準備が進んでいる!


ダンスを教えてくれている時の、シンの腕の中の感触を思い出した。
掌と掌が合わさって、温もりが伝わる。
逞しい腕が自分の体を支えて、身を預けてもぶれること無く、頼もしく抱き止められた。
音楽に合わせて優雅に流れる長身の体に導かれ、まるで雲の上に乗った気分になれる。

間近で見つめ合い、黒い瞳に射すくめられて、心は夢の世界に飛んで行く!


けれど、その夢の世界は、自分のものではない。
パーティーで、何人もの美しい女性たちが、シンの腕に抱かれている。

どんなタイプの女性が、皇子の心を捕らえるの?
シン君は、どんな風にお妃候補を見ているの?


あ・・・、私、焼きもちを焼いている!

考えてもしょうがないことに心を悩ませ、勝手に落ち込む自分が情けなかった。


そうよ!
シン君は皇太子、憧れの皇子様よ。
まるで現実的じゃない人よ!

あ~あ、誰かいい人居ないかな?
現実の恋人を見つけたら、きっと、無謀な夢を見ずに済むわ!



ぶつぶつ言いながら、構内を歩いていると、御曹司が現れた。

ガンヒョンの姿が無いというのに、チャン・ギョンがにじり寄って来る。


「アヒル~、聞いてくれよ!ガンヒョンが、ドライブに行ってくれるって!」
「やったわね、ギョン君!」
「ああ、アヒルのお蔭だ!ところで、週末、空いてるだろうな?」
「え?週末、何かあるの?」
「だから、ドライブだよ。」
「え?私の予定は関係ないでしょう?」
「ドライブは、アヒルと一緒が条件なんだ。」
「え~!二人で行ってよ~!私、完全に、お邪魔虫じゃないのよ~!」

ガンヒョンは、なかなか、身持ちが硬いようだ。


「もう一人、だれか連れて来るよ、ダブルデートだ!頼むよ、アヒル!断らないでくれよ!せっかくのチャンスなんだから!」
「もう・・・、仕方ないなぁ。じゃあ、週末ね!変な人、連れてこないでよ!」
「分かってるって!」


こんな出会いのチャンスも、いいかもしれない。
チェギョンは、無謀な憧れを振り払うため、ギョンの提案にほんの少しの期待を寄せた。



週末。
ギョンの車は、さすがの高級車。
大人4人が乗っても、狭さを感じさせない上に、乗り心地は最高だ。

運転は車の持ち主のギョン、助手席には、彼の『白鳥』ガンヒョン。

そして・・・。

後部座席に座るのは、付き添い役のチェギョンに、ギョンの友人・・・

シン皇太子殿下だ!


チェギョンはチラリと隣の席に座る『相方』を見て、ふっと小さくため息をついた。

ギョン君・・・、ひどいわ!



週末ドライブが決まると、皇太子の前で、ギョンは大騒ぎをしていた。

「イヒヒ・・・、やったぜ、シン!僕もとうとう、ガンヒョンとドライブデートだ!」
「ふふ・・・、ずいぶんと時間がかかったな。」
「こういうことは、根気が大事なんだ。繰り返し、熱心に気持ちを訴えることが重要だ!」
「で、どこに行くんだ?」
「ガンヒョンとアヒルが、相談して決めてくれることになってる。」
「アヒルって・・・、チェギョンも行くのか?」
「アヒル同伴が、ガンヒョンの条件だったんだ。」
「なんだ・・・、それって、デート呼べるのか?」
「ダブルデートは、デートだろう?」
「ダブルって・・・・、チェギョンにも相手がいるのか?」
「あ・・・、まずい・・・。ははは、シン!今のは、聞かなかったことにしてくれ!」
「聞き捨てならん!いったい誰だ?!チェギョンの相手は、誰なんだ?」
「こ、これから誘うんだよ。チェギョンがお邪魔虫になりたくないと言うから、ダブルデートにしようと決めたんだ。」
「だれを、誘う気だ?」
「インか、ファンの都合を聞こうと思ってたけど・・・。」
「僕が行く!」 
「で、でも・・・。チェギョンが何と言うか・・・・。」
「チェギョンには、言うな!」


ということで、シンがダブルデートに参戦することになったのだった。


「チェギョン、何か不満でもあるのか?さっきから、唇が尖ってるけど?」
「別に・・・、何でもないよ・・・、シン君。」
「ふっ・・・、僕が来たら、目を丸くしてたよな?」
「そ、そりゃあ、そうよ!どんなステキな人が来るのかと思ったら、シン君なんだもん!」
「おい、僕は、素敵な部類に入らないと言うのか?」
「そういう、わけじゃ・・・、なくて・・・。」
「何が不満なんだ?一応、モテモテ皇子だぞ。」
「うわ~!自分で言う?信じられないほどの王子病だわ!」
「ふんっ、悪かったな!」


何故かケンカを始めた二人。
どうして、こうなるのでしょう?


「もう!ギョン君が悪いのよ!シン君が来るなんて、一言も言ってなかったでしょう?」
「え~、今度は、僕が攻撃されるのか?シンは来ない、とも言ってないだろう?」
「シン君が来るなら、メールでそう教えてくれても良かったでしょう?」
「でも、そうしたら、チェギョンは来ないとか言い出しそうだったし・・・。」


ギョンは運転しながら、必死でチェギョンの攻撃を交わしていた。


「そんなに、他の男がよかったのか?チェギョン!」
シンの声がすこし大きく響いた。

「そ、そうよ!素敵な出会いが待ってると、期待してたんだもん!」
「素敵な出会いって・・・、そんなに恋人が欲しいなら、僕がなってやるよ!」
「ダメよ、シン君は友達だもん!」
「恋人は、まず友達から始まるものだろう?」
「でも・・・、シン君はダメなの!」
「何でだよ!」
「モテモテ皇子の遊び相手には、なりたくないの!」
「僕が女と遊んでる、って言うのか?」
「そんなの・・・知らないわよ!」
「知らないくせに、どうしてそんなこと言うんだよ?」
「だって・・・、シン君の周りには綺麗なお姉さんがいっぱい居て、お妃候補もいっぱい居て、カッコよくて、スタイルも良くて、モテモテなんだから、遊ぶに決まってる!男の人は、みんなそうだって、聞いたことあるもん!」
「他の男がどうであろうと、僕はチェギョンだけが好きなんだ!チェギョン以外は、目に入らない!チェギョンが居れば、それだけでいいんだ!」
「そんなこと・・・、信じられない!」
「どうしてだよ!僕は、心から、チェギョンの事が好きなのに!!!」


怒鳴り合いのケンカではあるのだが・・・
いつの間にか、告白タイムになっている!


その内容に、前席の二人は完全に呆れていた。



「あ、あの・・・、もうそれくらいにしたら?チェギョンも、焼きもちを焼くくらい、殿下が好きなんでしょう?ねえ、ギョン?」

「ガンヒョンの言う通り・・・、二人とも、いい加減にしてくれないかな?今日の主役は、僕とガンヒョンのはずだから・・・。」



「・・・。」

「・・・。」




高級車の後部座席。

シンとチェギョンが、揃って小さくなっていた!



(あ、シン君は小さくなれないか・・・ははは。)



---to be continued




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